「抱えないケア」では、体の使い方の指導と福祉用具を活用し、利用者が自分の力を使って移乗する支援を行います。しかし、誤った方法をとると介護負担が増えるだけでなく、利用者の怪我や転倒の危険も増す可能性があります。そこで、ここでは抱えないケアで注意すべきことをお話しましょう。
寝ている利用者が車いすに移乗するときは、まずリクライニングベッドのヘッド上昇機能を使用しましょう。このとき、利用者の姿勢が整わないまま上体を起こすと、不自然な姿勢となってしまうため、次の動作に移ることができなくなってしまいます。そのため、ただ起こすのではなく、次の動作も介助が最小限で済むように、寝ている姿勢を整えるところから始めましょう。頭の位置は下すぎないか、衣類のねじれはないか、体は起きる方向に傾いているかなどをよく確認してください。
頭の位置が下にある状態でベッドのヘッドを上昇させると、体がくの字に曲がり、次の動作に移れません。しかも、利用者の首が圧迫されて、苦しい思いをさせてしまいます。衣類のねじれがあると摩擦が強くなりますし、体が動かしにくいことに気を取られ、体が前傾し思わぬ事故にもつながります。また、体が起きる方向に向いていないと、上体を起こしたあとに向きを変える介助が必要になります。したがって、福祉道具を使う際には、ただ使うのではなく、利用者の持つ力が十分に発揮されるように気を配ることがポイントです。抱えないケアでは、小さな工夫やアイデアを駆使し、福祉道具の力を用いて、利用者の自立を促すようにしましょう。